2010年5月4日火曜日

クレーム①

2010-62

2週間ほど前に働いていたカフェで
お客様からかなり強いクレームがあった。

しかもそれは一方的にわたし個人に向けられた。

誓って書くがこのクレームの一件に関して
わたしにはまったくといっていいほど落ち度がなかった。
詳細な内容が書けないのは残念だが
それは本当に信じてもらう以外にない。
わたしは常にやるべきことをちゃんとしていたし、
それ以上の積極性でポジティブに働いている。

一緒に働いていたアルバイトの男の子が
3重に手を抜いた結果、今回のクレームが発生した。

3重の手抜きとは、
①やるべきことをやらなかった
②やらなかったことを報告しなかった
③軽いクレームを受けたときに対処せずそれを後回しにした

そして補足だが
④重大なクレームに至ったとき、自分の手抜きを隠蔽しようと嘘をついた

さて、ここから重大なクレームに至った。
お客様から真っ先に抗議を受けたのはわたしだった。
なぜならわたしはお客様と唯一会話をするレジのポジションだ。
オーダーを通し、お会計を済ませ、
最初の軽いクレームを受けたのもすべてわたしだった。

一緒に働く彼はわたしより長くそのカフェで働き、仕事を教えてくれていた。
わたしはほんの1ヶ月前に働き始めたばかりだ。
当然、その怒りを含んだ最初のクレームはわたしから彼に伝えられた。
緊張感を伴った声で、緊急性を最大限に表現したつもりだ。
彼は「あー」とだけ返事をして、次の行動に移った(ように見えた)。
それはわたしにはクレームに対処するための行動に受け取れた。
しかし実は彼は何も対処せず、結局わたしはもう一度クレームを受けることになる。


今度は、個人攻撃のような執拗なクレームだった。
名前を呼びつけにされ、「お前は俺をバカにしているのか!」と怒鳴られる。
最初のクレーム後のわたしの行動について詰問され
「どうなんだ、答えろっ」と言われるが答えようがない。
悪いのはわたしではなく、別のアルバイトだ。
しかしお客様はわたしの責任について問うていた。
わたしは店の立場に立ってただただ謝罪するしかない。
店長も呼ばれたが、わたしより2つ年下の店長はお客様の前で無言で縮こまっていた。
「大変に申し訳ございませんでした」を100回以上繰り返しても
そのお客様の怒りは収まらない。

結局、お客様は終始わたしを睨みつけ、わたしの苗字をメモして
本部に今から電話をかけるといって出て行ってしまった。

憎々しい言葉の数々の中で何度か
「あんたは悪いと思ってないだろう」
と怒りに声を震わせながら言った。


残念ながら、図星だ。


それを言われるたびに、めっそうもございません、
という困惑した顔を必死に作った。
申し訳なさをもっと表現できるように最大限努力もした。
クレームに至るまでのお客様の気持ちを想像し、
自分の心に「申し訳なさ」を増幅しようと試みた。
朝からこれほどの怒りを発散しているお客様が
もし自分だったらと考えるととても絶望的な気持ちになる。
しかしそれは同情という種類の感情であって
単純に、(軽蔑的な意味ではなく)かわいそうな人としか思えない。

「申し訳ないことをした」という気持ちをなんとか
自分の心の中に作れないものかと考えていた。
でもそれは捏造に近いかもしれない。

お客様は一方的にわたしを悪者にすることによって
自分のクレームの正当性を論理的に説明しようと試みていた。
つまり、わたしが理想的で完璧な行動をとっていれば
そもそもこのクレームはなかったんだと言った。
しかしそれは本当に一方的で自分勝手な決め付けであって、
実際にわたしがその行動を取るのは不可能だった。


わたしは悪くない。
ほんとうに、どうしようもなく悪くない。
むしろ感情としてはお客様の立場に立って行動していたはずだ。
できることなら重大なクレームに至る前に自らすばやく対処し謝罪したかった。
しかし、自分には守るべきレジのポジションがあって
わたし以外の人がその役目を代わりに負うことはない。
このカフェでは完全に分業化されたスタイルで働かされている。
皆それぞれ自分のポジションを死守しなくてはならない。
朝の混雑時、わたしはそこを絶対に動いてはならなかった。
それは店のルールだ。

クレームに対処することができる唯一のポジションの人間が
運の悪いことに、その日たまたまいい加減な男だった。
しかしそれはその時のわたしにはまだ判明していない事実だ。


こうしてわたしは一方的に罵声を浴びることとなった。
もちろん、そのすぐ後で店長とそのアルバイトはわたしに謝罪した。
お客様は誤解したまま帰っていったが、一緒に働いている人間には
誰がどう見てもわたしに非はないと分かっていた。

この出来事が不可解で、しばらく忘れられなかった。
自分がまったく悪くないのにも関わらず、
一方的にお前が悪いと攻撃され、強く謝罪を要求された。
しかしどれだけ精一杯謝っても謝っても
「悪いと思っていないだろう」とさらなる憎悪を呼び起こしてしまう。
怒りは収束するどころか膨らみ続ける。
憎々しげに睨まれ続ける。

終わりのない謝罪。


悪夢みたいだ。
昨夜はひどい夢を見たよ、
なんて友人に話しても良さそうな類の話だ。
それが現実に起こるなんて。


(つづく)

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