ある日、自分の家の庭に勝手にもう一つ家が建ち始める。
主人公の「僕」が驚いて妻に問い詰めると「あなたが住む、あなたの家を建ててるのよ」と。
自分の家のことなのに何も知らない上、詳しい説明もない。
さらにその新しい家にはなぜか馬が住むことになる。
「僕」は、わけがわからないままカッとなって大工の棟梁に殴りかかるも失敗して梯子から落ち、
そのはずみで感電して精神病院に入院させられる。
病棟から建築中の家を眺めていたら、暗がりの家の中に妻と、男の影が見える。
よく見えないが大工の棟梁らしい。
そのことを翌朝妻に詰問すると「何言ってるの、あなたが来たんじゃない」と。
自分の見た男の影が自分?
もうわけがわからない。
退院して家に帰ってみると、すでに新築の二階建てのわが家の一番豪華な部屋に馬が暮らしている。
馬は競走馬で、気品があり男らしく野性的で、人間の「僕」よりも妻に大事にされている。
さらに真夜中に馬が「奥さん、奥さん、開けて下さい」としゃべっているのを聞いてしまう。
やがて妻は馬と起居しだし、馬のために大きなセーターまで編みだす始末。
さすがの僕もこのままではヤバイと思って
馬にまたがって「お前の主人は僕だぞ!」と鞭をくれてやるが馬はまったく言うことを聞かない。
そのうち、馬に振り落とされ、クタクタになりながら家に戻ってくると
家から大工の棟梁が出てくる。
でも「僕」は疲れ果てていてもう怒る気になれない。
すると「この野郎!」と叫んで馬が大工の棟梁のあとを追っていく。
ああもうこれ以上は無理だ、自分の頭がおかしいのか?
もう一度心安らぐ場所へ戻ろうと、「僕」が精神病院へトボトボ歩いていると
妻があとを追いかけてきて
「待って。わたしはあなたのことを本当に愛しているのよ」と告白される。
以上があらすじです(笑)
意味不明かつ理不尽。
主人公の僕は小心者なのでいつも妻に言いくるめられ、状況にガンガン流されていきます。
この手の不条理小説は、昔好きだった安部公房に似ていますが
小島氏の場合は、主人公がなかなかあり得ない「弱さ」を発揮します。
とにかくあらゆることに弱い主人公。たぐい稀な「弱さ」が読んでて可笑しいのです。
そもそも最初に、勝手に「わが家」が建ち始めた時点で怒ってもいいのですが
怒らない。うまく怒れない。
妻の理屈に丸め込まれて、仕方がない、とすぐに諦めます。
我が家に、馬が住むことになるのも、仕方がない。
こういう奇妙な弱さ、なかなか書けるものじゃない。
話の一貫性がないのに小説として成立していることがすごい。
「僕は」「僕は」を繰り返す小学生のような独特の文体もまた主人公の「弱さ」を倍増させていて面白い。
ヘンテコな小説が読みたい時はこちらです。
ちなみに、小説「馬」は以下の短編集に収録されています。
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