さんざん職場の文句を言って辞めていった前任者の女の子は
史上稀にみる最悪な在庫表をわたしに残していった。
5月に引き継いだわたしは実に3ヶ月もの間、
そのめちゃくちゃな在庫表に頭も身体も振り回されてきたのだ。
いい加減な仕事しかできないヤツは、人間関係もいい加減なのだ。
生き方もいい加減になるのだ。
いい加減な在庫表から、その子の人間としての欠陥を
わたしは嫌というほど洗いざらい読み取った。
嘘とタテマエばかりの在庫表。
それを知っているのは、今もわたしだけだ。
退職の日が迫っていたある日、
彼女とわたしは引継ぎのために時間をあてがわれていた。
倉庫においてあった製品在庫の説明をし終えると彼女は
「そうだ、ちょっと乾電池もらっていくよ。もう辞めちゃうから今のうちに」
そう言って、製品用の新品の単3電池20個あまりをわしづかみにすると
すばやくバッグに入れた。
わたしの見ている前で、堂々と、悪びれる様子も見せなかった。
まるで洗濯物でも取り込むみたいに平然と取っていったのだ。
他にもやってるな。
新品の乾電池だけじゃあるまい。
そう感じさせるほど彼女の動きは自然だった。
嫌なものを見せられた。
乾電池を盗んで、職場を去っていく。
彼女の生命に黒いシミがついた。
いまは見えなくても、歳を取ったら顔に出てくるぞ。
シミだらけの醜い顔になるのだ。
彼女の美しい横顔をみつめながらそう思った。
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