多いときは一日に50回以上に電話を取る。
そのたくさんの電話の中のひとつ。掛けてきたのは男の人だった。
「ゆゆ・・・ゆうパック・・・ゆうパック・・・ゆうびんきょくの・・・者です」
・・・?はい。と答えてみる。
「おおお荷物、お荷物、お荷物のお荷物の、かかかくに・・確認かくに確認で確認で・・」
・・・・・・??はい。と答える。
「ししし・・新橋の・・しんば新橋新橋の・・じゅうしょ・・新橋住所・・・新橋のじゅじゅじゅ・・」
ものすごいドモリだ。と思った。高速で回しているDJのようだ。
根気よく、ええ、はい。と答える。
「○○会社様からのおおおおお荷物お荷物おに・・おにも・・つ・・を・・・」
はい。
「はっ・・・はっ・・はいたつ・・・配達はいたつはいた・・配達・・・」
なかなか要領を得ない。
内容を理解しようとする私も受話器を強くにぎりしめていた。
だんだん眉間にしわがよってくる。
「いい・・いつ・・いつも・・いつもはいつもは・・じゅじゅ・・住所がいつもは住所が住所が・・」
そうやって5分ほど辛抱強く聞いた。
彼が言いたかったのは、こうだった。
わたしの勤める会社はビルが二つに分かれている。
隣のビルにメール室1があり、わたしのいるビルにメール室2がある。
広報の○○さん宛の荷物だが、どちらに配達したら良いのか?ということだった。
誤配達を防ぐためか確認のために電話してきたようだ。
「○○宛の荷物をメール室2のほうへ配達してもいいかということですか?」
わたしが聞き返すと、彼のドモリは酷くなった。
焦らせてしまったようだ。
「じゅうしょ住・・住所が住所が住所がじゅじゅ住所が・・しし新橋しんば・・新橋のしんば新橋・・」
わたしは彼が同じことを言い終わるまで受話器を握り締めながら全部聞いていた。
正直、ショックだった。
いままで聞いたドモリの中では最上級の酷さだったからだ。
途中から聞いているのがたまらなく、つらくなった。
ああ、こんなにもドモってしまったら、どうやって人と会話していくんだろう。
激しくいじめられただろうに。
親は悩んだだろう。本人も悩んだだろう。
バカにされただろう。笑われただろう。
人と話すのが怖くなっただろう。
それなのに彼は電話で説明して配達の確認をとらなくてはならない。
そしてわたしが聞き返したことで余計に焦ってしまって
彼の言葉が絶望的にこんがらがっていく。
言葉の糸がぐちゃぐちゃに絡まってもう自分じゃどうしようもない、
という感じが伝わってきた。
本当に申し訳ないことをした。と思った。
受話器を置いてからもなお、胸に何かがつかえていた。
わたしはこんな絶望は知らなかった。
これほど話すのが困難なら、生きるのがつらいだろう。
得体の知れないものに胸をグリっとえぐられたような感覚だった。
こういう人に、いい友達がいてくれるといい。
安心して話せる世界、親身に耳を傾けてくれる世界があるといい。
何もできないわたしは、彼が孤独でないことを祈った。
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